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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1052号 判決 1980年10月30日

控訴人(附帯被控訴人))(以下単に「控訴人」という。)

堀内文左衛門

控訴人(附帯被控訴)(以下単に「控訴人」という。)

大石ふさ

右両名訴訟代理人

佐藤孝文

外三名

被控訴人(附帯控訴人)(以下単に「被控訴人」という。)

岩佐忠雄

右訴訟代理人

江橋英五郎

外三名

主文

一  本件各控訴を棄却する。

二  附帯控訴に基づき、原判決を左のとおり変更する。

三  控訴人らは被控訴人に対し、別紙目録(一)記載の物件を収去して同目録(二)記載の土地を明渡せ。

四  訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの連帯負担とする。

五  この判決主文第三項は、控訴人らのため金二〇〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴人らは、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として、主文第二ないし第四項同旨の判決並びに仮執行宣言を求め、控訴人らは、附帯控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、左のとおり附加訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の訂正)

(1)  原判決二枚目表一〇行目の「目録(一)」を「目録(二)」と訂正する。

(2)  一二行目の「権限」を「権原」と訂正する。

(3)  三枚目裏二行目の「二月ごろ」を「二月二一日」と訂正する。

(4)  四枚目表九行目の「挙出」を「拠出」と訂正する。

(5)  四枚目裏九行目から五枚目裏四行目までを削除する。

(6)  五枚目裏五行目から六枚目表四行目までの記載を次のとおり改める。

(2) 仮に被控訴人が本件土地につきその主張のとおり明渡請求権を有するとしても、その権利の行使は、次の事由により、信義則に反し、権利の濫用として許されない。即ち、

控訴人堀内は、昭和三七年八月末頃、富士急行線河口湖駅に南接し富士山の眺望絶佳の地である山梨県南都留郡河口湖町柳久保所在の土地にゴルフ練習場を建設すべく、右土地の所有者渡辺貞二との間に売買契約を締結したところ、これを聞知した被控訴人から、「自己所有の本件土地を提供するから、該土地を使用して是非共同でゴルフ練習場を経営することにして欲しい。ついては渡辺との売買は解消されたい」旨再三にわたつて勧説され、更に被控訴人において本件土地の提供と経営責任の遂行とを確約したため、遂に被控訴人の勧めに応じて、渡辺との間の前記売買契約を解除したうえ、昭和三八年二月二一日、控訴人大石を加え、被控訴人との三者で本件組合契約を成立させ、本件土地においてゴルフ練習場を開業した。右のように本件土地によるゴルフ練習場の経営は、被控訴人の一方的イニシアチブと控訴人堀内が自己の地位を不利益に変更することによつて、成約・開業されたものである。

しかるに、被控訴人は、約旨に反して、前記のとおり、出資金二〇〇万円中一〇〇万円を拠出せず、また右経営のため必要なクラブハウス、打球場の建設、芝生の植栽・整備等に非協力的であつて、これに要する費用、労力並びに経営上の損失はすべて控訴人堀内においてこれを負担するのやむなきに至らしめたのみならず、富士吉田市民特にいわゆる有力者に対し、「控訴人らは本件土地を不法に占拠しているものであるから、本件ゴルフ練習場へ行くな」などと業務妨害的な宣伝をした。

元来ゴルフ練習場なるものは、クラブハウス、打球金網等の設置のほか、広大な上地に芝生を植え、かつゴルファーの定着性確保のためには、これらを良好な状態に維持しなければならないから、開業当初はもとよりその後の維持管理のために、投資額は多額に上り、労力の投入もまた常時要求されるのである。従つて、その経営が軌道に乗りかつこれを維持するためには、長時間にわたる出指と努力が必要であるのに、被控訴人は、前記のとおり、自らの出資義務をも完全には履行しないうえ、控訴人らの経営に対し非協力的態度をとり続け、しかも、開業後間もなく本件組合契約から脱退したとして、控訴人らに対し本件土地の明渡を請求しているのであるが、叙上の経緯に照せば、被控訴人の右請求は恣意行為そのものであつて、権利の濫用にあたるというべきである。

(3) 仮に以上の主張が理由がないとしても、控訴人らは、被控訴人が後記一体契約上の債務(予備的に後記組合契約上の債務を主張する。)を履行しなかつたことにより、本判決添付の計算書記載のとおりの損害を蒙つた。よつて、控訴人らは、同時履行の抗弁権に基づき、被控訴人が控訴人らに対して右損害の賠償をするまで本件土地の明渡の履行を拒絶する。

(7)  原判決六枚目裏三行目の記載を「控訴人らの権利濫用の主張はこれを争う。」と、同四行目の「(四)の(8)」を「(四)の(3)」とそれぞれ改める。

(8)  八枚目表九行目から九枚目表七行目までを削る。

(9)  一〇枚目裏四行目から同九行目までを削る。

(10)  (証拠関係)<省略>

(11)  一一枚目表一〇行目の「和泉五郎」を「和泉五朗」と訂正する。

(主張)

一  被控訴人

1  附帯控訴について

(一) 控訴人らは、被控訴人の所有にかかる本判決添付の別紙目録(二)記載の土地(本件土地)上に同目録(一)記載の建物及び構築物を所有して、該土地を占有している。

(二) よつて、被控訴人は、控訴人らに対し、土地所有権に基づき、本件建物及び構築物を収去して該土地を明渡すべきことを求める。

(三) 被控訴人は、原審において、控訴人らの占有にかかる土地の範囲は原判決添付の別紙目録(二)のとおりであるとして、右部分の土地につき明渡を求めたが、当審において、その範囲は本判決添付の別紙目録(二)のとおりであることが判明したので、同目録(二)記載の土地につきその明渡を求めることにその請求を拡張することとし、右拡張部分につき附帯控訴を申し立てたものである。

2  控訴人らの当審における新たな主張に対する認否及び反論

(一) 後記二の2の(一)について

右主張のうち、控訴人両名と被控訴人の三者間で会社設立のための社員となろうとする者(以下、発起人という。)の組合契約を締結したことは認めるが、その余は争う。

被控訴人は、本件土地の所有者として(発起人組合員としてではなく)、控訴人ら個人に対して(発起人組合に対してではない。)、会社設立後は会社がその資産一切を引継ぐことを前提としながらも、控訴人らが本件土地上にゴルフ練習場を建設してこれを使用することを許したのであり、右は期間を会社成立までの間に限定した被控訴人と控訴人ら間の使用貸借であつて、発起人契約とは別個のものである。右使用貸借の期間は通常会社が成立するまでの期間を予想したものであり、右期間の経過と共に使用貸借は終了する。してみれば、右使用貸借は遅くとも被控訴人が控訴人らに対して本件土地明渡の調停を申し立てた昭和四三年六月二四日には終了しているといわなければならない。

仮に本件土地の使用関係が控訴人らの主張するように会社成立を停止条件とする賃貸借契約及び右条件未成就の間の使用貸借であるとしても、条件未成就に藉口して土地の使用を継続しているのは控訴人ら自身であり、会社を成立せしめようとすれば、被控訴人の協力なしにこれを行うことが可能であるのに、控訴人らは契約後十数年を経た現在もこれをなさずに、本件土地を使用しているのであつて、その使用貸借契約は既に終了しているべきである。

(二) 後記二の2の(二)について

右主張は争う。仮に本件土地の使用貸借が被控訴人と前記発起人組合との間に成立したとしても、被控訴人が発起人組合を脱退することは、法的に即土地の明渡請求となるものではないから、組合にとつて不利となることはなく、従つて、被控訴人は自由に脱退をなし得る。その後は被控訴人において残余組合員である控訴人らに対し、一般法規に従つて使用貸借を終了させ、本件土地の明渡を請求できるのであつて、本件の場合、使用貸借は前記のとおり既に終了した。

(三) 後記二の2の(三)について

右主張は争う。

二  控訴人ら

1  附帯控訴について

前記一の1の(一)の事実のうち、被控訴人の所有土地の範囲が被控訴人主張のとおりであることは、これを認める。

2  当審における新たな主張

(一) 控訴人両名と被控訴人の三者間で昭和三八年二月に締結された契約(本件組合契約)は、これを法律的にみると、(1) ゴルフ練習場の設置・経営を事業目的とする富士五湖ゴルフセンター有限会社の設立、(2) 右設立中の会社が目的たる事業に着手し遂行する旨の発起人組合契約、(3) 右会社成立を停止条件とする、賃貸人被控訴人、賃借人右会社、賃料月額坪当たり一〇円なる本件土地の賃貸借契約及び(4) 右条件未成就の間の使用貸主被控訴人、使用借主発起人組合なる本件土地の使用貸借契約の四個が一体不可分となつている混合契約である。即ち、右各契約は、その窮極の目的が右会社によるゴルフ練習場の設置・経営であり、その実現方法として、人的には発起人組合の成立が必須の前提となり、物的にはゴルフ練習場の基盤たる本件土地の使用貸借ないし賃貸借が必然的に随伴し、しかも会社成立前にこれら人的・物的要素を統合した事業の着手、遂行があるという構造を有するのであつて、右四個の典型契約の構成要素が有機的に結合して一体をなすものというべきである。従つて、右契約の終了に関しても、一体としての把握・評価がなされるべきところ、右契約については、合意解約も法定解除もなされず、なお有機的一体として存続するのであるから、被控訴人はこれを尊重し、前記目的のために努力すべき義務を負い、これに反する本件土地の明渡請求は許されない。

(二) 仮に前記契約の性質が四個の契約が不可分一体をなす混合契約とは認められず、四個の契約に分解されるべき本質を有し、その評価も個別化され得るものであるとしても、本件土地についての前記使用貸借契約(使用貸主被控訴人、使用借主発起人組合)は、発起人組合による会社の設立・経営という契約上の第一目的により制約されるのである。即ち、被控訴人は、本件土地の使用借主である発起人組合の構成員の一人として、同組合契約に従い会社の設立・経営に協力すべき立場にあるのであるから、合理的な理由もなく右組合から脱退することは許されず、従つて、自ら右組合から脱退したとして、使用貸借の終了を主張し、本件土地の明渡を請求することはできない。

(三) 仮に被控訴人がその主張のとおり前記発起人組合から脱退したとするならば、右脱退と同時に、前記契約による被控訴人をも含めた会社の不成立が確定したことになる。この場合、被控訴人は、発起人として商法一九四条の類推により、会社の設立に関してなした行為につきその責に任ずべきことになるが、本件の場合、前記契約により会社設立までは本件土地の使用貸借契約が継続するところ、右使用貸借契約は設立に関してなした行為にほかならないから、被控訴人は脱退と同時に本件土地の使用貸借を引受けたものとされるのである。そして、右使用貸借は期間の定めのないものであるところ、控訴人らは現に本件土地をその目的に従いゴルフ練習場用地として使用収益しているのであるから、右使用貸借は未だ終了していない。

(証拠関係)<省略>

理由

一本件控訴について

当裁判所も原審と同様被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容すべきものと判断するものであつて、その理由は、左のとおり附加訂正するほか、原判決の理由説示のとおりである(但し原判決一七枚目裏七行目の「そうすると」から一九枚目表四行目までの記載を除く。)から、これを引用する。

1  (原判決理由の訂正)

(一)  一二枚目表一二行目に「二月二〇日」とあるのを「二月二一日ころ」と訂正する。

(二)  (証拠関係)<省略>

(三)  一四枚目表一〇、一一行目の「申し入れた。」から同一二行目までの記載を、「申し入れたが、翌二二日に控訴人堀内の知人の和泉五朗から執り成しの電話があり、更に翌々二三日には同控訴人自身から先日の言動につき陳謝する旨の電話があつたため、右離脱の意思を翻えし、その後も引き続いて控訴人らと共同してゴルフ練習場開業準備の仕事に当たり、同年八月三一日に挙行された本件ゴルフ練習場の開業祝賀式には経営者の一人として出席するなどした。しかし、その後も被控訴人と控訴人堀内との間柄は必ずしも円滑にはいかず、同年一二月一七日には再び両者が経営をめぐる意見の対立から激しい口論となり、遂に悪態を応酬するに至つた。ここにおいて、被控訴人は、今後は本件土地を同控訴人に賃貸することにして、自らは控訴人らとの共同経営から完全に離脱したいと決意し、右共同事業から手を引くと共に、その後第三者を介して控訴人堀内に対し、本件土地につき賃貸借契約を取り結びたい旨申し入れたが、同控断人がその話合いに全く応じようとしなかつたため、賃貸借契約が締結されないままに終つた。」と改める。

(四)  一六枚目表一行目の「以上のように認めることができ[の次に「控訴人堀内の本人尋問の結果(原審及び当審)並びに<証拠>のうち、同控訴人が被控訴人に対し本件土地の使用料を支払つたとする部分はたやすく採用できず、他に」と加える。

(五)  一六枚目裏二、三行目に「爾来、右事業に全く関与せず、」とあるのを「昭和三八年一二月下旬以降右共同事業から手を引き、」と改める。

(六)  一九枚目表六行目に「前項に認定した事情からすれば」とあるのを、「前段認定の諸事実(なお控訴人らは、被控訴人が富士吉田市民に対して業務妨害的な宣伝をした旨主張するが、該主張事実を認めるに足る証拠はない。)に鑑みれば」と改め、同七、八行目に「、本件土地の賃貸借契約の解約の意思表示をさせ」とあるのを削り、同一一行目の「原告の本訴請求については」から同一二行目までの記載を「たとえ控訴人堀内が控訴人ら主張のとおり被控訴人からの要望を容れて同人との共同経営に踏み切つたもので、そのため、同控訴人において一旦締結した訴外渡辺貞二との間の土地売買契約を解除せざるを得なくなるなどの不利益を蒙つた事実があつたとしても、被控訴人の本訴請求が信義則に反し、権利の濫用にあたるものということはできない。」と改める。

(七)  一九枚目裏一行目に「別表」とあるのを「本判決添付の計算書」と、同七行目に「組合」とあるのを「控訴人両名」とそれぞれ改め、同八行目に「留置権」とあるのを削る。

2  (控訴人らの新たな主張に対する判断)

(一)  控訴人らは、昭和三八年二月締結の本件組合契約は四個の典型契約の構成要素が有機的に結合して一体をなしているもので、これがなお存続しているのであるから、被控訴人のなす本件土地の明渡請求は契約の目的に反し許されない旨主張する。

しかしながら、前認定(原判決引用)の事実に徴すれば、本件組合契約なるものの内容は、(イ) 控訴人両名と被控訴人との三者が発起人となり、各自二〇〇万円宛出資して、本件土地においてゴルフ練習場の設置・経営を事業目的とする有限会社を設立することとし、(ロ) 右会社の設立をまたずに右三者が共同で、被控訴人の提供にかかる本件土地を無償で利用してゴルフ練習場を経営し、会社設立と同時に右営業を会社に引き継ぐ(これを被控訴人の立場からすれば、会社設立に至るまでの間、その所有にかかる本件土地が右営業のため無償で使用収益されることを容認する。)とするものであつて、右(イ)及び(ロ)の各約定が併存しているものと解せられる。そして、右(ロ)の約定においては、本件土地を無償で使用収益することをその内容とするものであるから、右は使用貸借に該当するものというべく、その貸主が本件土地の所有者である被控訴人であることはいうまでもない。その借主については、控訴人両名と被控訴人との三者によつて構成される、前記会社の設立を目的とする発起人組合ないし会社設立に至るまで暫定的に共同して右営業を行うことを目的とする結合体(一種の組合)であるとみることができるが、右発起人組合も、共同事業を目的とする結合体なるものも、その法律的性質は民法上の組合であつて、それ自体権利義務の主体たり得ないものであるから、もとより使用貸借における借主たり得ず、結局その借主は、前記三者のうち貸主である被控訴人を除いた二者即ち控訴人両名であるというべきである。

右のように、本件組合契約なるものの法律的性質は、発起人組合契約と本件土地の使用貸借契約との併存しているものとみられるのであつて、控訴人らの主張するようないわゆる一体契約とみることはできないから、これを前提とする控訴人らの主張はこれを採用することができない。

(二)  次に、控訴人らは、本件土地の使用貸借は前記発起人組合を借主とするものであり、同組合による会社の設立・運営という契約上の第一目的によつて制約されるのであるから、被控訴人において合理的な理由もなく右組合から脱退して使用貸借の終了を主張することは許されない旨主張する。

しかし、本件土地の使用貸借における借主は控訴人両名であつて発起人組合ではないこと前段説示のとおりであるから、右主張はその前提を欠くものといわざるを得ないのみならず、仮に控訴人らの主張するように、前記使用貸借の終了が発起人組合契約によつて何らかの制約を受ける関係にあつたとしても、被控訴人において控訴人らに対し、遅くとも昭和四三年七月八日ごろには本件組合を脱退する旨の意思表示をなしたこと並びに右脱退の意思表示が他の組合員である控訴人らに対し何らかの不利益を与えるものであつたとしても、被控訴人の脱退についてはやむを得ない事由があつたと認むべきこと前認定(原判決引用)のとおりであるから、既に被控訴人の脱退の効果は生じているものというべく、従つて、その後においては、もはや発起人組合契約の存在が使用貸借の終了につき何らかの影響を及ぼすものと解する余地はない。

本件使用貸借の期間が会社成立に至るまでの間とされていたことは前記のとおりであるが、前認定(原判決引用)の事実特に本件組合契約締結の趣旨に徴すれば、右期間の約定の趣旨は、会社成立に至るまではそれがいかに長期間であつても使用貸借を継続するというものではなく、通常会社が成立すると予想される期間にこれを限定する趣旨のものと解されるところ、被控訴人において本訴を提起した昭和四三年一〇月二一日(右は記録上明らかである。)ころには遅くとも通常会社が成立すると予想される期間は既に経過したものということができる。従つて、前記使用貸借は遅くとも昭和三年一〇月二一日ころには終了し、控訴人らは、これにより本件土地の占有権原を失つたものといわなければならない。

(三)  更に控訴人らは、被控訴人が前記発起人組合から脱退したとすれば、これにより会社の不成立が確定したことになるから、被控訴人は商法一九四条の類推により本件土地の使用貸借を引受けたものとされる旨主張する。しかしながら、有限会社の設立については商法一九四条の規定の準用ないし類推がなされるべきものとはいい難いのみならず、同条一項にいう「会社ノ設立ニ関シテ為シタル行為」とは、会社の設立行為自体に属するもの及び会社の設立に必要な行為など会社が成立すればその効果が当然会社に帰属したであろう行為を指すものと解すべきところ、本件土地の使用貸借は、前記のとおり、その期間を会社設立に至るまでの間と限定して、会社設立とは別個に成立したものであるから、右に該当しないことは明白である。従つて、右主張は到底採用することができない。

二本件附帯控訴について

被控訴人の所有にかかる本件土地の範囲が本判決添付の別紙目録(二)記載のとおりであることは、控訴人らの認めるところであり、控訴人らがその地上に同目録(一)記載の物件を所有して該土地を占有していることは、弁論の全趣旨によつてこれを認めることができる。

してみれば、右土地の所有権に基づいて、控訴人らに対し右物件の収去と土地の明渡を求める被控訴人の本訴請求は理由があるから、請求の拡張分については、附帯控訴に基づき原判決を変更してこれを認容することとする。

三結論

以上の次第で、本件各控訴は理由がないから、これを棄却し、本件附帯控訴は理由があるので、これに基づき原判決主文第(一)項を本判決主文第三項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条前段、八九条、九三条一項但書を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(杉田洋一 蓑田速夫 松岡登)

別紙目録、損害額計算書<省略>

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